COLUMN OCRとは?仕組み・種類・活用例・メリットまでわかりやすく解説

2025.12.05

紙の書類やPDF内の文字を手入力でシステムに転記する作業は、多くの企業で日常的に発生しています。しかし、この作業には時間がかかるだけでなく、入力ミスのリスクも常につきまといます。

OCR(光学文字認識)技術を活用すれば、こうした手入力作業を大幅に削減できます。本記事では、OCRの基本的な仕組みから種類、具体的な活用シーン、導入時のメリット・デメリットまで、体系的に解説します。業務効率化を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

OCRとは

OCRは、紙の文書や画像に含まれる文字を、コンピュータが認識できるテキストデータに変換する技術です。1960年代から存在する技術ですが、近年のAI技術の発展により、認識精度が飛躍的に向上しています。

従来は印刷された活字の認識が中心でしたが、現在では手書き文字や複雑なレイアウトの文書も高精度で読み取れるようになりました。この進化により、OCRは幅広い業務領域で実用的なツールとして活用されています。

ここでは、OCRの基本的な仕組みと、従来型OCRとAI-OCRの違い、そしてOCRが注目される背景を整理します。

  • OCR(光学文字認識)の基本的な仕組み
  • OCRとAI-OCRの違い
  • OCRが注目される背景

OCR(光学文字認識)の基本的な仕組み

OCRは「Optical Character Recognition(光学文字認識)」の略称です。スキャナーやカメラで読み取った画像データから、文字の形状を解析してテキストデータに変換する仕組みです。

処理の流れは、まず画像を取り込み、次に文字領域を検出し、個々の文字を認識してテキスト化するという段階を踏みます。従来型のOCRでは、文字パターンをデータベースと照合する方式が主流でしたが、現代は文字自体を認識する手法へ進化しています。

認識されたテキストは、検索可能なPDFやExcelファイル、データベースなど、さまざまな形式で出力が可能です。

OCRとAI-OCRの違い

従来型のOCRは、事前に登録された文字パターンとの照合により文字を認識します。そのため、印刷された活字には強いものの、手書き文字やレイアウトが複雑な文書の認識精度は低くなりがちでした。

AI-OCRは機械学習技術を活用し、大量の文字データから学習することで認識精度を高めています。手書き文字の個人差や、フォーマットが異なる文書でも高い精度で読み取れるのが特徴です。

また、AI-OCRは使用を重ねるごとに学習し、認識精度が向上していく点も大きな違いです。現在、多くの企業が導入を進めているのがこのAI-OCR技術です。

OCRが注目される背景

企業のデジタル化推進により、紙文書をデータ化するニーズが急速に高まっています。リモートワークの普及やペーパーレス化の要請により、紙に依存した業務プロセスの見直しが求められています。

人手不足が深刻化する中、手作業による転記作業は大きな負担です。そこでOCRを導入することで、限られた人材をより付加価値の高い業務に振り向けられます。

さらに、AI技術の進化により認識精度が実用レベルに達したことも、OCR普及の大きな要因です。従来は認識エラーが多く実務で使いにくかった手書き文字や非定型文書も、現在では十分な精度で処理できるようになりました。こうした技術的進歩により、OCRは特別なツールから日常的な業務ツールへと変化しています。

OCRの種類

OCRにはいくつかの種類があり、それぞれ得意とする文書や用途が異なります。自社で扱う文書の特性を理解し、適切なOCRタイプを選択することが重要です。

文字の種類や文書のレイアウトによって、使用すべきOCR技術は変わってきます。ここでは、代表的な4つのOCRタイプを紹介します。

  • 印刷文字OCR
  • 手書き文字OCR
  • 定型帳票OCR
  • 非定型帳票OCR(AI-OCR)

印刷文字OCR

印刷文字OCRとは本・書類・帳票などの「活字」を読むのに強いタイプです。定型帳票(伝票など)との相性が良く、印刷された文字であれば高い認識精度を実現します。

フォントや文字サイズが統一されている文書では、ほぼ100%に近い精度で認識できます。名刺、請求書、契約書など、ビジネス文書の多くが印刷文字OCRの対象です。

ただし、手書き文字や複雑なレイアウトには対応が難しく、用途が限定される点に注意が必要です。

手書き文字OCR

手書き文字OCRとは手書き伝票、アンケート、宅配不在票などの手書き文字を認識するタイプです。AI-OCRの代表的な強みであり、個人の筆跡の違いにも対応できます。

従来型のOCRでは困難だった手書き文字の認識が、機械学習により実用レベルに達しました。ただし、極端に崩れた文字や判読が難しい筆跡では、認識精度が低下する場合があります。

なお、手書き文字OCRは医療機関のカルテ、建設現場の作業日報、アンケート回答など、手書き文書を扱う業務で活躍します。

定型帳票OCR

定型帳票OCRはレイアウトが固定された帳票(請求書・申込書)を対象とするタイプです。精度が高く業務で最も使われており、事前に読み取り位置を設定することで高速・高精度な処理が可能です。

フォーマットが決まっているため、項目名と値の対応関係が明確になり、データベースへの登録も自動化できます。金融機関の申込書や、定型の発注書などで広く活用されています。

ただし、フォーマットが変更されると再設定が必要になる点がデメリットです。

非定型帳票OCR(AI-OCR)

非定型帳票OCR(AI-OCR)はレイアウトがバラバラでも認識できるタイプです。請求書フォーマットが複数ある企業に最適で、取引先ごとに異なる様式の文書も柔軟に処理できます。

AI技術により、項目名(「合計金額」「支払期限」など)から自動的に必要なデータを抽出でき、複数の取引先から届く請求書や、様式が統一されていない業界での活用が進んでいます。

従来は人が目視で確認していた作業を、大幅に自動化できる点が大きな特徴です。

OCRを導入するメリット・デメリット

OCR導入を検討する際は、メリットだけでなくデメリットも正しく理解しておく必要があります。期待値と実際の効果にギャップが生じないよう、両面から評価することが重要です。

導入によって得られる効果と、注意すべき課題を明確にすることで、適切な導入計画を立てられます。すべての業務に万能なソリューションではないため、自社の状況に照らして判断しましょう。

ここでは、OCR導入の主なメリットとデメリットを整理します。

  • メリット
  • デメリット

メリット

OCR導入により得られる主なメリットは以下の通りです。

  • 手入力の削減(工数・人的ミスの大幅削減)
  • 業務の標準化
  • 紙データの再利用・分析が可能に
  • リードタイム短縮(処理速度アップ)
  • 検索性の向上

まず手入力の削減により、工数・人的ミスを大幅に削減可能です。例えば、数百枚の請求書を手入力していた作業が、数分で完了するケースもあるでしょう。

また、データ化により業務の標準化も進みます。担当者の経験や能力に左右されることなく、誰が処理しても同じ品質を保てるため、処理のばらつきを解消できます。紙で保管していた情報がデジタルデータとして蓄積されることで、再利用や分析も容易になり、過去データを経営判断に活用可能です。

さらに処理速度の向上も見逃せません。リードタイムが短縮されることで業務全体のスピードが向上し、月末処理や決算業務など時間的制約が厳しい作業で特に効果を発揮します。テキストデータ化により検索性も向上するため、必要な情報へのアクセスが迅速になり、顧客対応や意思決定のスピードアップにもつながります。

デメリット

OCR導入時に注意すべき主なデメリットは以下の通りです。

  • 100%の認識は不可能(校正が必要)
  • 手書き・非定型はツールによって精度差が大きい
  • 導入初期の設定・学習が必要
  • 文書の品質に認識精度が左右される

OCRで100%の認識は不可能であり、必ず校正作業が必要です。特に重要な数値データや固有名詞は、人の目による最終確認が欠かせません。

手書き・非定型文書はツールによって精度差が大きく、製品選定を誤ると期待した効果が得られないでしょう。無料トライアルなどで、実際の文書での認識精度を事前に確認することが重要です。

導入初期は設定・学習に時間がかかり、すぐに効果が出ないケースもあります。定型帳票の場合は読み取り位置の設定、AI-OCRの場合は学習データの準備が必要です。

また、スキャンする文書の品質(折れ、汚れ、かすれ)によっても認識精度は大きく変動します。原本の状態が悪いと、どれだけ高性能なOCRでも正確な読み取りは難しくなります。

OCRの活用シーン

OCRは幅広い業務領域で活用されており、特に大量の紙文書を扱う業務で大きな効果を発揮します。実際の活用事例を知ることで、自社での導入イメージが具体化します。

業種や部門によって最適な活用方法は異なりますが、共通するのは「手作業による転記作業の削減」という目的です。ここでは、代表的な4つの活用シーンを紹介します。

  • 請求書・領収書・経費処理
  • 伝票・出荷指示・物流現場
  • アンケート・申込書のデータ化
  • 医療・教育・自治体での書類処理

請求書・領収書・経費処理

OCRによる金額・日付・取引先の自動抽出により、経理の手入力を大幅削減できます。とくに月に数百件の請求書を処理する企業では、数十時間の作業時間削減も珍しくありません。

また、OCRと経費精算システムを連携させることで、領収書の写真を撮影するだけで自動的に経費データが登録されます。さらに従業員の申請作業負担も軽減され、経理部門の承認作業もスムーズになるでしょう。

加えて、OCRは会計ソフトへの直接取り込みにも対応しており、仕訳入力の自動化も実現可能です。

伝票・出荷指示・物流現場

OCRにより紙の指示書やピッキングリストをデータ化することで、ミス防止・リアルタイム反映が可能になります。倉庫や配送センターでの作業効率が大幅に向上するでしょう。

たとえば、手書きの出荷伝票をスキャンして即座にシステムに反映させることで、在庫データの更新遅れを防げます。また、配送状況の可視化も進み、顧客への迅速な情報提供が可能です。

さらにOCRは検品作業での照合にも活用でき、出荷ミスの削減にも貢献します。

アンケート・申込書のデータ化

OCRにより紙の回答をそのままテキスト化することで、集計・分析が圧倒的に速くなります。数千件のアンケートを手入力していた作業が、数時間で完了するでしょう。

顧客満足度調査や社内アンケートなど、自由記述欄を含む調査でも活用できます。さらにテキストマイニングツールと組み合わせることで、回答の傾向分析も効率化されるでしょう。

またOCRは、イベント参加申込書や会員登録用紙など、大量の個人情報を扱う業務でも入力ミスのリスクを低減可能です。

医療・教育・自治体での書類処理

OCRは大量の紙書類を扱う業界でとくに効果が大きく、業務効率化と正確性向上を同時に実現します。医療機関では問診票やカルテ、教育機関では成績表や出席簿、自治体では各種申請書類の処理に活用されています。

たとえば医療現場では、電子カルテ化が進む中で過去の紙カルテをデジタル化する用途でも使われています。患者情報の検索性が向上し、診療の質向上にもつながるでしょう。

また、自治体の窓口業務では、OCRにより住民票や各種証明書の申請処理時間を短縮し、住民サービスの向上に貢献しています。

OCRツールの選び方

OCRツールは多数の製品が存在し、それぞれ特徴や得意分野が異なります。自社の業務要件に合わない製品を選んでしまうと、期待した効果が得られず、投資が無駄になる可能性があります。

製品選定では、処理する文書の種類、認識精度の要求レベル、既存システムとの連携可能性など、複数の観点から評価する必要があるでしょう。無料トライアルを活用し、実際の文書で検証することも重要です。

ここでは、OCRツール選定時の5つの重要なポイントを紹介します。

  • 帳票の種類(定型/非定型)で選ぶ
  • 手書きの精度で選ぶ
  • クラウド型かオンプレか
  • API連携が必要か
  • 既存システム(基幹・ERP)との連携が可能か

帳票の種類(定型/非定型)で選ぶ

処理する文書が決まったフォーマットか、バラバラな形式かによって最適なツールが変わります。定型文書のみを扱うなら定型帳票OCR、複数の様式が混在するならAI-OCR対応製品を選ぶべきです。

たとえば、社内で統一された申請書や、特定取引先からの定型請求書であれば、定型帳票OCRで十分な精度が得られるでしょう。一方、不特定多数の取引先から様々な様式の文書が届く場合は、AI-OCR機能が必須です。

なお、将来的な業務拡大も見据えて、柔軟性のある製品を選ぶことも検討しましょう。

手書きの精度で選ぶ

手書き文字を扱う業務では、製品による精度差が非常に大きくなります。導入前に実際の手書き文書でテストし、認識精度を確認することが不可欠です。

数字のみの手書きと、漢字を含む文章では難易度が大きく異なるでしょう。自社で処理する文書の種類に応じて、適切な製品を選択してください。

また、一部の製品では特定の業界(医療、建設など)に特化した手書き認識エンジンを搭載しているものもあります。

クラウド型かオンプレか

データのセキュリティ要件やコストモデルによって、クラウド型とオンプレミス型を使い分けます。個人情報や機密情報を扱う場合は、オンプレミス型が適している場合があるでしょう。

クラウド型は初期投資が少なく、スケーラビリティに優れています。処理量の変動が大きい業務や、複数拠点での利用に適しています。

一方、オンプレミス型は自社サーバー内で処理が完結するため、情報漏洩リスクを最小限に抑えられます。ただし、初期投資や運用保守コストは高くなるでしょう。

API連携が必要か

既存の業務システムと自動連携させる場合、API機能の有無が重要です。RPAツールや基幹システムとの連携を予定しているなら、API対応製品を選ぶ必要があります。

API連携により、OCRで読み取ったデータを自動的に会計システムや販売管理システムに登録可能です。手作業での転記が不要になり、真の意味での業務自動化が実現するでしょう。

なお、連携可能なシステムの種類や、カスタマイズの自由度も確認しておきましょう。

既存システム(基幹・ERP)との連携が可能か

基幹システムやERPと連携できるかは、OCR導入効果を左右する重要なポイントです。単体で使うだけでなく、既存システムとシームレスに接続できる製品を選ぶことで、業務全体の効率化が実現します。

SAP、Oracle、勘定奉行など、主要な業務システムとの標準連携機能を持つ製品もあるでしょう。カスタマイズが必要な場合は、ベンダーのサポート体制も確認しておくべきです。

また、将来的なシステム更新も見据えて、汎用性の高い連携方式を採用している製品が望ましいでしょう。

まとめ

OCRは紙文書やPDF内の文字をテキストデータに変換する技術であり、手入力作業の削減や業務効率化に大きく貢献します。従来型OCRからAI-OCRへの進化により、手書き文字や非定型文書の認識精度も実用レベルに達しました。

印刷文字OCR、手書き文字OCR、定型帳票OCR、非定型帳票OCRという4つの主要タイプがあり、それぞれ得意とする文書が異なります。自社で処理する文書の特性を理解し、適切なタイプを選択しましょう。

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