食品を扱う小売業や飲食業において、廃棄ロスは経営を圧迫する大きな課題のひとつです。適切な管理ができていないと、売れ残りや賞味期限切れによって大量の商品を廃棄せざるを得なくなり、収益性の低下を招きます。さらに、廃棄処理にかかるコストも無視できない負担となっています。

廃棄ロスの削減は、単なるコスト削減だけでなく、環境への配慮や企業の社会的責任を果たす取り組みとしても注目されています。しかし、具体的にどのような対策を講じれば効果的なのか、どれくらいのコストが削減できるのか分からないという事業者も少なくありません。

本記事では、廃棄ロスの基本的な考え方から、具体的な対策方法、放置することで生じるリスク、そして国内企業の取り組み事例まで詳しく解説します。

廃棄ロスとは？重要な理由

廃棄ロスとは、販売されることなく廃棄される商品や食材によって発生する損失のことです。食品スーパーやドラッグストア、飲食店などでは、賞味期限切れや消費期限切れ、売れ残り、品質劣化などの理由で、やむを得ず商品を廃棄するケースが日常的に発生しています。

廃棄ロスが重要視される理由は、大きく分けて三つあります。まず第一に経済的な損失です。廃棄される商品は、仕入れコストや人件費、光熱費などがすでに投入されているにもかかわらず、売上につながりません。さらに廃棄処理にも費用がかかるため、二重のコスト負担となります。

第二に環境への影響です。大量の食品廃棄物は焼却処理される際に二酸化炭素を排出し、地球温暖化の原因となります。また、限られた資源を無駄にすることは、持続可能な社会の実現を妨げる要因にもなっています。

第三に企業の社会的責任です。世界では飢餓に苦しむ人々がいる一方で、日本国内では大量の食品が廃棄されている現状に対し、消費者の目は厳しくなっています。廃棄ロスの削減に取り組む企業は、社会的な信頼を獲得し、ブランドイメージの向上にもつながります。

このように、廃棄ロス対策は経営面でも社会面でも重要な取り組みといえるでしょう。

食品ロスにかかる廃棄コスト一覧

食品ロスにかかる廃棄コストは、商品の種類や重量、処理方法によって大きく異なります。ここでは、一般的な廃棄コストの目安を一覧表でご紹介します。実際のコストは地域や業者、契約内容によって変動するため、あくまで参考としてご覧ください。

廃棄物の種類	重量・単位	処理費用の目安
一般食品廃棄物	1キログラムあたり	20円から50円
生ごみ・調理くず	1キログラムあたり	30円から60円
賞味期限切れ商品	1キログラムあたり	25円から55円
産業廃棄物扱いの食品	1キログラムあたり	40円から80円
液体廃棄物	1リットルあたり	50円から100円
容器包装込みの廃棄	1キログラムあたり	35円から70円

これらの処理費用に加えて、廃棄作業にかかる人件費や、商品の仕入れコスト、保管にかかった光熱費なども実質的な損失となります。たとえば、月間100キログラムの食品を廃棄している店舗では、処理費用だけで年間数十万円のコストが発生します。さらに仕入れコストを含めると、損失額は数百万円規模に膨らむケースも珍しくありません。廃棄ロスの削減は、これらのコストを大幅に圧縮できる重要な経営課題です。

廃棄ロスの対策方法6選

廃棄ロスを削減するためには、さまざまな角度からアプローチすることが大切です。ここでは、効果的な対策方法を6つご紹介します。

• 発注精度を高める
• 適切な在庫管理を徹底する
• 値引き販売を効果的に活用する
• 商品陳列を工夫して回転率を上げる
• 需要予測システムを導入する
• 賞味期限管理によって適切に消費する

これらの対策を組み合わせることで、廃棄ロスを大幅に削減し、収益性の向上につなげることができます。

発注精度を高める

廃棄ロス削減の基本は、適切な発注量を見極めることです。過剰に発注してしまうと売れ残りが発生し、廃棄につながります。逆に発注量が少なすぎると欠品が発生し、売上機会を逃してしまいます。バランスを取るためには、発注精度を高めることが不可欠です。

発注精度を高めるには、過去の販売データをしっかり分析することが重要です。曜日別、時間帯別、天候別、イベント別など、さまざまな条件下での販売傾向を把握することで、より正確な需要予測が可能になります。また、季節変動や地域特性も考慮に入れる必要があります。

さらに、発注担当者の経験や勘に頼るだけでなく、データに基づいた客観的な判断を行うことが大切です。属人的な発注業務を標準化することで、担当者が変わっても安定した発注精度を維持できます。最近では、人工知能を活用した需要予測型自動発注システムも登場しており、過去の実績データから最適な発注量を自動で算出してくれます。

こういったシステムを導入することで、発注業務の効率化と廃棄ロスの削減を同時に実現できるでしょう。

適切な在庫管理を徹底する

適切な在庫管理を徹底することは、廃棄ロス削減の重要な柱です。在庫状況を正確に把握できていないと、既に十分な在庫があるにもかかわらず追加発注してしまい、過剰在庫から廃棄につながるケースが発生します。

在庫管理の基本は、先入れ先出しの原則を守ることです。古い商品から順に販売することで、賞味期限切れを防ぎます。バックヤードや倉庫では、入荷日や賞味期限が分かりやすいように整理整頓し、スタッフ全員が一目で判断できる環境を整えましょう。

また、定期的な在庫棚卸しを実施することも大切です。帳簿上の在庫数と実際の在庫数にズレがあると、適切な発注判断ができなくなります。週次や月次での棚卸しを習慣化し、在庫の精度を高めることが求められます。デジタルツールを活用すれば、リアルタイムでの在庫把握も可能になり、より迅速な意思決定ができるようになります。適切な在庫管理は、廃棄ロス削減だけでなく、キャッシュフローの改善にも貢献する重要な取り組みです。

値引き販売を効果的に活用する

値引き販売を効果的に活用することは、廃棄ロスを削減する実践的な方法です。賞味期限が近づいた商品や売れ残りそうな商品を、廃棄する前に値引き販売することで、少しでも収益を回収できます。

値引きのタイミングと割引率の設定が重要なポイントです。賞味期限の数日前から段階的に値引き率を上げていく方法が一般的で、たとえば期限の三日前は20パーセント引き、二日前は30パーセント引き、当日は50パーセント引きといった設定が考えられます。早めに値引きを開始することで、廃棄前に販売できる確率が高まります。

また、値引きシールを貼る作業を効率化することも大切です。手作業で一つひとつシールを貼っていると時間がかかり、タイミングを逃してしまうこともあります。最近では、人工知能が最適な値引き率とタイミングを自動で判断し、効率的に値引き業務をサポートするシステムも登場しています。値引き販売は、廃棄ロス削減と同時に、お得な商品を求める顧客の満足度向上にもつながる有効な施策です。

商品陳列を工夫して回転率を上げる

商品陳列を工夫することで、商品の回転率を高め、廃棄ロスを削減することができます。どんなに良い商品でも、顧客の目に留まらなければ購入されません。効果的な陳列によって、売れ残りを防ぐことが可能です。

まず重要なのは、賞味期限が近い商品を前面に配置することです。新しい商品を奥に、古い商品を手前に並べる前出し陳列を徹底することで、自然と先入れ先出しが実現できます。また、目線の高さにある棚は最も購入されやすいゴールデンゾーンと呼ばれており、回転率を上げたい商品をこの位置に配置する工夫も効果的です。

さらに、関連商品を近くに陳列するクロスマーチャンダイジングも有効です。たとえば、パスタソースの近くにパスタ麺を置いたり、鍋つゆの近くに野菜や肉を配置したりすることで、まとめ買いを促進できます。季節やイベントに合わせた特設コーナーを設けることも、商品の訴求力を高める方法です。陳列の工夫は、追加投資なしで実践できる手軽な対策であり、スタッフの意識向上にもつながります。

需要予測システムを導入する

需要予測システムの導入は、廃棄ロス削減に大きな効果をもたらす対策です。人工知能を活用した需要予測システムは、過去の販売データや気温、天候、曜日、イベントなどのさまざまな要因を分析し、高精度な需要予測を行います。

従来の発注業務では、担当者の経験や勘に頼る部分が大きく、どうしても予測のブレが生じていました。しかし、需要予測システムを導入することで、データに基づいた客観的で正確な予測が可能になり、過剰発注や欠品を大幅に削減できます。実際の導入事例では、廃棄金額が40パーセント削減されたケースもあります。

また、需要予測システムは単なる発注支援だけでなく、商品ごとの販売傾向や顧客の購買パターンを可視化する機能も備えています。これにより、売れ筋商品の強化や死に筋商品の整理といった戦略的な判断も可能になります。導入には初期投資が必要ですが、長期的に見れば人件費削減や廃棄コスト削減によって十分な投資回収が期待できる、費用対効果の高いソリューションといえるでしょう。

賞味期限管理によって適切に消費する

賞味期限管理を徹底することは、廃棄ロス削減の基本中の基本です。賞味期限が切れてしまうと、どれだけ品質が良い商品でも廃棄せざるを得なくなります。逆に、期限前に適切に管理し販売できれば、廃棄を防ぐことができます。

効果的な賞味期限管理には、循環式の管理方法が有効です。全商品を定期的にチェックするのではなく、賞味期限が近づいた商品だけをアラートで通知し、重点的に管理する仕組みです。チェック作業の負担を大幅に軽減しながら、見落としを防ぐことができるでしょう。

また、賞味期限管理アプリやシステムを活用することで、作業の効率化と精度向上が実現できます。バーコードをスキャンするだけで商品情報と賞味期限を自動記録し、期限が近づいた商品を自動で抽出してくれる機能は、特に商品数が多い店舗で威力を発揮します。賞味期限管理の徹底は、廃棄ロス削減だけでなく、顧客の安全を守り、企業の信頼性を高めるためにも欠かせない取り組みです。

廃棄ロスを対策しないリスクとは

廃棄ロスへの対策を怠ると、さまざまなリスクが企業に降りかかります。ここでは、特に重要な三つのリスクについて詳しく解説します。

• 利益率の低下と経営悪化につながる
• 企業イメージの低下を招く
• 従業員のモチベーション低下を引き起こす

これらのリスクを理解し、早期に対策を講じることが重要です。

利益率の低下と経営悪化につながる

廃棄ロスを放置する最大のリスクは、利益率の低下と経営悪化です。廃棄される商品には、仕入れコスト、配送費、保管費、人件費、光熱費など、さまざまなコストがすでに投入されています。これらの投資が一切回収できないまま廃棄されるため、企業にとっては純粋な損失となります。

さらに、廃棄処理にも費用がかかります。一般廃棄物や産業廃棄物として処理する際の費用、廃棄作業にかかる人件費なども加わり、二重三重のコスト負担となります。月間の廃棄量が多い店舗では、年間で数百万円から数千万円規模の損失が発生するケースも珍しくありません。

小売業や飲食業は利益率が低い業種であり、わずかな廃棄率の増加でも経営に大きな影響を及ぼします。特に競争が激しい市場では、廃棄ロスによるコスト増加が価格競争力の低下を招き、顧客離れにつながる恐れもあります。廃棄ロス対策を怠ることは、企業の収益基盤を揺るがす重大なリスクといえるでしょう。

企業イメージの低下を招く

廃棄ロスへの対策を怠ると、企業イメージの低下を招くリスクがあります。近年、消費者の環境意識は高まっており、大量の食品を廃棄する企業に対する社会の目は厳しくなっています。持続可能な社会の実現に向けて、企業の社会的責任が問われる時代です。

廃棄ロスが多い企業は、資源を無駄にし環境を破壊する企業として批判の対象になる可能性があります。特にソーシャルメディアの普及により、企業の不適切な行動は瞬時に拡散され、炎上リスクも高まっています。一度失った信頼を回復するには、長い時間と多大なコストがかかります。

逆に、廃棄ロス削減に積極的に取り組む企業は、環境に配慮した責任ある企業として評価され、ブランドイメージの向上につながります。特に若い世代を中心に、環境問題への関心は高く、企業の姿勢が購買行動に影響を与えるケースも増えています。企業イメージは長期的な競争力を左右する重要な資産であり、廃棄ロス対策はその保護と向上に欠かせない取り組みです。

従業員のモチベーション低下を引き起こす

廃棄ロスを放置することは、従業員のモチベーション低下を引き起こすリスクもあります。日々、大量の商品を廃棄する作業は、従業員にとって精神的な負担となります。自分たちが苦労して仕入れ、陳列した商品が売れずに捨てられる光景を目の当たりにすることは、働く意義や達成感を失わせる要因になりかねません。

特に、廃棄の原因が適切な管理体制の欠如や経営判断のミスにある場合、従業員は会社に対する不信感を抱くようになります。自分たちの努力が無駄になっていると感じれば、仕事への熱意が失われ、離職率の上昇につながる恐れもあります。

一方、廃棄ロス削減に組織全体で取り組み、成果が出ている職場では、従業員の一体感や達成感が高まります。無駄を減らし効率的に業務を進められる環境は、働きやすさの向上にもつながります。従業員のモチベーションは、サービスの質や顧客満足度にも直結する重要な要素です。廃棄ロス対策は、従業員の働きがいを高め、組織の持続的な成長を支える基盤となるのです。

日本国内における廃棄ロスについて

日本国内では、多くの企業が廃棄ロス削減に向けた取り組みを進めています。ここでは、具体的な企業事例を三つご紹介します。

• 大手スーパーによる需要予測システム導入事例
• ドラッグストアチェーンの賞味期限管理強化事例
• コンビニエンスストアの値引き戦略事例

これらの事例から、効果的な廃棄ロス対策のヒントを得ることができます。

大手スーパーによる需要予測システム導入事例

ある大手食品スーパーチェーンでは、人工知能を活用した需要予測型自動発注システムを導入し、大幅な廃棄ロス削減を実現しています。このスーパーでは、従来の発注業務が担当者の経験や勘に頼る部分が大きく、過剰発注による廃棄が課題となっていました。

需要予測システムの導入により、過去の販売データに加えて、気温や天候、曜日、地域イベントなどの外的要因も考慮した高精度な需要予測が可能になりました。特に日配品や生鮮食品など賞味期限の短い商品において、予測精度が大幅に向上し、適正在庫の維持が実現できています。

導入後の効果は顕著で、約40店舗での試験導入では廃棄金額が40パーセント削減されました。同時に、欠品率も45パーセント改善され、売上機会の損失も防げています。発注作業にかかる時間も93パーセント削減され、従業員は接客や売場づくりといった付加価値の高い業務に集中できるようになりました。これらの成功を受けて、同社では全店舗への展開を進めており、企業全体での廃棄ロス削減と収益性向上を目指しています。

ドラッグストアチェーンの賞味期限管理強化事例

ある全国展開するドラッグストアチェーンでは、賞味期限管理の強化によって廃棄ロスの大幅削減に成功しています。このチェーンでは、取り扱い商品が数万点に及び、従来の手作業による賞味期限チェックでは見落としが発生し、廃棄ロスが増加していました。

そこで、循環式賞味期限チェックシステムを導入し、賞味期限が近づいた商品だけをアラートで通知する仕組みに切り替えました。これにより、全商品を定期的にチェックする必要がなくなり、作業時間が大幅に削減されました。また、見落としのリスクも最小限に抑えられ、期限切れ商品の販売事故も防げています。

さらに、期限が近づいた商品については段階的な値引き管理を徹底し、廃棄前に販売できる確率を高めました。このシステムは既に2500店舗以上で導入されており、多くの店舗で廃棄ロスの削減効果が確認されています。同社では、賞味期限管理の強化が顧客の信頼獲得にもつながり、ブランドイメージの向上にも貢献していると評価しています。

コンビニエンスストアの値引き戦略事例

大手コンビニエンスストアチェーンでは、効果的な値引き戦略によって廃棄ロス削減に取り組んでいます。コンビニは24時間営業で商品の入れ替わりが激しく、弁当やおにぎりなど消費期限の短い商品を多く扱うため、廃棄ロスが大きな経営課題となっていました。

このチェーンでは、人工知能を活用した最適値引きシステムを導入し、商品ごとの販売動向や時間帯、曜日などを分析して、最適な値引き率とタイミングを自動で判断する仕組みを構築しました。これにより、早めの値引きで販売機会を増やしつつ、過度な値引きによる利益率低下も防いでいます。

また、値引き商品の購入者にポイント還元を行うことで、顧客の来店頻度向上にもつなげています。これらの取り組みにより、一部の店舗では廃棄率が30パーセント以上削減され、同時に顧客満足度も向上しました。同社では、値引き戦略を単なるロス削減策としてではなく、顧客との新たな接点を創出するマーケティング施策としても位置づけ、全国展開を進めています。

まとめ

廃棄ロスは、食品を扱う事業者にとって収益性を大きく左右する重要な経営課題です。適切な対策を講じなければ、経済的損失だけでなく、企業イメージの低下や従業員のモチベーション低下といったリスクも引き起こします。しかし、発注精度の向上、在庫管理の徹底、効果的な値引き販売、需要予測システムの導入、賞味期限管理の強化といった対策を組み合わせることで、廃棄ロスは大幅に削減できます。

日本国内の先進企業の事例からも分かるように、適切なシステムやツールを導入することで、廃棄金額の大幅削減と同時に、業務効率化や顧客満足度向上も実現できます。廃棄ロス対策は、持続可能な経営を実現するための重要な投資といえるでしょう。

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