COLUMN 食品ロス削減のために何ができる?関連法や企業が実施している事例を紹介
日本では年間約523万トン(2021年度)もの食品ロスが発生しており、これは国連が世界中で行う食料援助量の約1.2倍に相当します。食品を扱う企業にとって、食品ロス削減は社会的責任であると同時に、経営効率を高める重要な取り組みでもあります。
本記事では、食品ロスの基本的な定義から、企業が取り組むべき理由、関連法律の概要、具体的な削減方法、そして実際の企業事例まで、体系的に解説します。自社での食品ロス削減施策を検討する際の参考にしてください。
そもそも食品ロスとは?
食品ロスとは、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品のことです。農林水産省の定義では、まだ食べられる状態であるにもかかわらず捨てられてしまう食品を指します。
食品ロスは大きく「事業系食品ロス」と「家庭系食品ロス」に分類されます。事業系食品ロスは、食品製造業、卸売業、小売業、飲食店などから発生するものです。一方、家庭系食品ロスは、一般家庭から出る食べ残しや賞味期限切れによる廃棄を指します。
事業系食品ロスの主な原因には、売れ残り、返品、製造過程での規格外品、飲食店での食べ残しなどがあります。これらの削減には、企業レベルでの組織的な取り組みが不可欠です。
企業が今、食品ロス削減に取り組むべき理由
企業が食品ロス削減に取り組む理由は、単なる社会貢献だけではありません。法的義務の遵守、コスト削減、ブランド価値の向上など、経営上の多面的なメリットがあります。
食品を扱う企業にとって、食品ロス削減は避けて通れない経営課題となっています。消費者の意識も高まっており、積極的に取り組む企業は市場での優位性を獲得できるでしょう。
ここでは、企業が食品ロス削減に取り組むべき3つの主要な理由を整理します。
- 環境負荷や資源の無駄遣いの削減
- 「食品ロス削減推進法」の制定
- 社会貢献による店舗イメージの向上
環境負荷や資源の無駄遣いの削減
食品ロスは、生産から廃棄までの過程で大量のエネルギーと資源を消費します。廃棄される食品の生産に使われた水、肥料、燃料などがすべて無駄になり、さらに焼却処分時にはCO2が排出されます。
たとえば、食品ロス523万トンを焼却処理する際に発生するCO2は、膨大な量に上ります。また、日本は食料自給率が低く、多くを輸入に依存しているため、輸送コストや環境負荷も見過ごせません。
食品ロスを削減することで、企業は環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現に貢献できます。SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「つくる責任つかう責任」とも直結する取り組みです。
「食品ロス削減推進法」の制定
2019年10月1日に施行された食品ロス削減推進法により、企業には法的な対応が求められるようになりました。この法律は、国、地方公共団体、事業者、消費者の多様な主体が連携して食品ロス削減に取り組むことを目指しています。
食品ロス削減推進法では、事業者の責務として「食品ロスの削減について、国又は地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めること」が明記されています。また、食品関連事業者には、食品廃棄物の発生抑制や再生利用などの取り組みが求められます。
法令遵守の観点からも、企業は組織的な食品ロス削減体制を構築する必要があります。
社会貢献による店舗イメージの向上
食品ロス削減に積極的に取り組む企業は、消費者から高い評価を得られます。環境や社会問題に配慮した企業姿勢は、ブランド価値の向上につながり、顧客ロイヤルティの強化にも貢献するでしょう。
近年、エシカル消費(倫理的消費)を重視する消費者が増えています。食品ロス削減の取り組みを可視化し、積極的に発信することで、企業の社会的責任を果たす姿勢をアピールできます。
また、従業員のモチベーション向上にもつながります。社会貢献性の高い取り組みに参加することで、従業員のエンゲージメントが高まり、採用活用にも優位性を発揮できる可能性があります。
店舗が理解しておくべき食品ロス削減推進法の概要
2019年10月1日に施行された食品ロス削減推進法は、正式には「食品ロスの削減の推進に関する法律」といいます。この法律は、日本だけでなく世界においても取り組むべき重要な課題とされている、大量の食品ロスの削減を促すものです。
日本は、海外からの食糧輸入に依存している一方で、まだ食べることができる状態の食品を大量に廃棄している現状があります。食品ロス削減推進法は、こうした矛盾した状況を解決するために策定されました。
この法律の目的は、国や地方公共団体、事業者、消費者などの様々な立場の人たちの役割や責務などを明らかにするとともに、基本方針の策定やその他食品ロスの削減に関連する施策の基本事項を定めることによって、総合的な推進を図ることにあります。
食品ロスを削減する方法
食品ロス削減には、多様なアプローチがあります。店舗の規模や業態、取り扱い商品によって最適な方法は異なりますが、複数の施策を組み合わせることで効果を最大化できるはずです。
重要なのは、一時的な取り組みではなく、継続的な改善サイクルを回すことです。データに基づいた分析と、現場スタッフを巻き込んだ実践が成功の鍵となります。
ここでは、企業が実践できる代表的な食品ロス削減方法を6つ紹介します。
- 需要予測と発注量の最適化
- 消費期限・賞味期限の見直し
- 在庫管理のデジタル化
- 規格外品・過剰在庫の再活用
- フードバンク・フードドライブへの寄付
- ロス削減メニュー・小盛りメニューの導入
需要予測と発注量の最適化
過去の販売データや天候、イベント情報などを分析し、需要を正確に予測することで適切な発注量を算出できます。
たとえば、曜日や天候による販売傾向を把握することで、無駄な仕入れを防げます。また、商品ごとの回転率を分析し、売れ筋商品と死に筋商品を明確に区別することも重要です。
需要予測の精度向上は、食品ロス削減だけでなく、在庫コストの削減や品切れによる機会損失の防止にもつながります。
消費期限・賞味期限の見直し
科学的根拠に基づいて消費期限・賞味期限を再検証し、適切に延長することで廃棄を減らせます。食品メーカーでは、品質保持技術の向上により、安全性を維持しながら期限を延長する取り組みが進んでいます。
また、小売店では「年月日」表示から「年月」表示への変更により、日付による値引きや廃棄のタイミングを柔軟に調整できるようになりました。消費者への適切な情報提供も重要です。
ただし、期限の延長は科学的検証に基づいて行う必要があり、安全性を損なってはなりません。
在庫管理のデジタル化
紙やExcelでの在庫管理から、専用システムやクラウドツールへの移行により、リアルタイムでの在庫把握が可能になります。賞味期限が近い商品を自動でアラート通知する機能により、適切なタイミングでの販促や値引きを実施できます。
デジタル化により、複数店舗の在庫を一元管理し、店舗間での在庫移動や需給調整も効率化されます。また、過去のデータ分析により、ロス削減の効果測定や改善施策の立案も容易になります。
初期投資は必要ですが、長期的には大きなコスト削減効果が期待できます。
規格外品・過剰在庫の再活用
形や大きさが規格外となった食品や、賞味期限が近い商品を、別の商品として再活用する方法です。規格外の野菜や果物を加工食品の原料として使用したり、訳あり商品として販売したりする取り組みが広がっています。
飲食店では、余剰食材を使った日替わりメニューやまかない料理への活用も有効です。また、食品製造業では、製造過程で出る端材を別の商品に加工するアップサイクルも注目されています。
こうした取り組みは、廃棄コストの削減だけでなく、新たな収益源の創出にもつながります。
フードバンク・フードドライブへの寄付
賞味期限が近い商品や包装不良品など、品質に問題はないが販売が難しい食品を、フードバンクやフードドライブを通じて福祉施設などに寄付する方法です。企業の社会貢献活動として、食品ロス削減と社会支援を同時に実現できます。
フードバンクは、企業から寄贈された食品を必要とする福祉施設や支援団体に無償で提供する活動です。また、フードドライブは、家庭で余っている食品を持ち寄り、フードバンクなどに寄付する取り組みといえるでしょう。
寄付には食品衛生法などの法令遵守が必要ですが、多くの企業が積極的に参加しています。
ロス削減メニュー・小盛りメニューの導入
飲食店では、食べ残しを減らすために小盛りメニューやハーフサイズの提供を行う取り組みが広がっています。顧客の食べきれる量に合わせた選択肢を提供することで、満足度を維持しながら食品ロスを削減できます。
また、余剰食材を活用した日替わりメニューや、閉店前の値引き販売なども有効です。持ち帰り容器を用意し、食べ残しの持ち帰りを促進する店舗も増えています。
顧客とのコミュニケーションを通じて、食品ロス削減への理解と協力を得ることも重要です。
企業が実践している食品ロス削減の事例
食品ロス削減の取り組みは、業種や規模を問わず多くの企業で実践されています。先進的な事例を知ることで、自社での具体的な施策立案に役立てることができます。
業界によってアプローチは異なりますが、共通するのは組織的な取り組みとデータに基づいた継続的改善です。ここでは、代表的な3つの領域における実践事例を紹介します。
- 小売・飲食業での事例
- 製造・流通業での事例
- 自治体・家庭レベルの取り組み
小売・飲食業での事例
小売業では、「てまえどり」の実践が全国的に広がっています。商品棚の手前にある賞味期限の近い商品から取ることを推奨するポップや掲示により、消費者の協力を得ながら食品ロスを削減する取り組みです。
また、賞味期限表示の見直しも進んでいます。大手スーパーでは「年月日」表示から「年月」表示への変更により、日付による過度な鮮度競争を緩和し、廃棄削減に成功している事例があります。
飲食店では、食べ残しの持ち帰り促進や、注文量の最適化に向けた顧客とのコミュニケーション強化が行われています。事前に適切な量を提案することで、満足度を維持しながらロスを削減できるでしょう。
製造・流通業での事例
食品製造業では、規格外品の活用が進んでいます。形や大きさが基準に満たない野菜や果物を、加工食品やジュースの原料として使用することで、廃棄を大幅に削減可能です。
また、物流最適化により、配送効率を高めて鮮度を保つ取り組みも重要です。温度管理の徹底や配送ルートの見直しにより、輸送中の品質劣化を防げます。
さらに多拠点・多店舗を展開する企業では、在庫管理の共通プロセスを導入し、全体最適化を図る動きが加速しています。システム化により、店舗間の在庫移動や需給調整がリアルタイムで行えるようになりました。
自治体・家庭レベルの取り組み
自治体レベルでは、地産地消の推進や学校給食での食品ロス抑制、消費者向け啓発活動が行われています。神奈川県公式サイトでは、県民向けの食品ロス削減キャンペーンや、事業者向けの支援制度が紹介されています。
学校給食では、児童生徒への食育を通じて、食べ残しを減らす取り組みが効果を上げています。適切な配膳量の設定や、苦手な食材への配慮なども重要です。
家庭レベルでは、冷蔵庫の整理整頓、買い物前の在庫チェック、食材の使い切りレシピの活用など、日常生活でできるアクションが推奨されています。消費者一人ひとりの意識改革が、社会全体の食品ロス削減につながります。
まとめ
食品ロスは年間約523万トンにも上り、環境負荷や資源の無駄遣いという深刻な問題を引き起こしています。企業にとって、食品ロス削減は法的義務の遵守、コスト削減、ブランド価値向上という多面的なメリットをもたらす重要な経営課題です。
2019年に施行された食品ロス削減推進法により、事業者には組織的な取り組みが求められるようになりました。需要予測の最適化、賞味期限の見直し、在庫管理のデジタル化、規格外品の再活用、フードバンクへの寄付など、多様なアプローチが可能です。
店舗を運営する企業は自社の事業特性に合わせた施策を選択し、継続的な改善サイクルを回すことで、持続可能な社会の実現に貢献できるでしょう。


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